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名古屋地方裁判所 昭和61年(ワ)4096号 判決

原告

峰田しづ子

被告

今村仁男

ほか一名

主文

一  被告らは、各自、原告に対し、金一億二八九一万八〇八〇円及びこれに対する昭和五九年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは、各自、原告に対し、金二億〇八六二万五三〇八円及びこれに対する昭和五九年九月三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

3  仮執行宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和五九年九月三日午前一時四〇分頃

(二) 場所 名古屋市守山区大字吉根東名高速道路上り線三三三・二キロポスト付近

(三) 原告車 普通貨物自動車(静岡四四つ九七三〇)

(四) 右運転者 訴外峰田好一(以下「訴外好一」という。)

右同乗者 原告

(五) 被告車 普通貨物自動車(石一一に二三九〇)

(六) 右運転者 被告藤田博文(以下「被告藤田」という。)

(七) 事故の態様 原告車が本件道路の走行車線上を春日井インター方面から名古屋インター方面に向つて進行中、同一方面に進行する被告車に追突され、原告は後記傷害を受けた。

2  責任原因

(一) 被告今村仁男(以下「被告今村」という。)は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供していたものであり、被告藤田の使用者でもある。

(二) 被告藤田は、被告今村の業務として被告車を運転中に、前方安全不確認の過失により本件事故を発生させたものである。

(三) 従つて、被告今村は自賠法三条ないし民法七一五条により、被告藤田は民法七〇九条により、本件事故により生じた損害を賠償する責任がある。

3  原告の受傷及び治療の経過等

(一) 原告の受傷

胸椎圧迫骨折、胸髄損傷、頭部外傷

(二) 治療の経過

(1) 昭和五九年九月三日安井外科病院へ入院。

(2) 同年九月三日から同年一一月七日(六五日間)まで名古屋第二赤十字病院へ入院。

(3) 同年一一月七日から昭和六〇年三月二七日(一四一日間)まで静岡県立総合病院へ入院。

(4) 同年三月二八日から症状固定日の同年六月二日(六七日間)まで神奈川リハビリテーシヨン病院へ入院。但し、それ以後も入院は継続している。

(三) 後遺症

原告は、第四胸髄性完全両下肢麻痺の後遺障害を残したまま、昭和六〇年六月二日頃その症状が固定し、これは自賠法施行令二条別表の後遺障害等級表(以下「等級表」という。)の第一級三号に該当する。

4  損害

(一) 治療費 八七七万一四四〇円

本件事故当日から昭和六〇年五月三一日までの分

(二) 付添看護科 三六〇万八八五五円

昭和五九年九月三日から同六〇年七月三一日までの間に要した分で、右当時、原告は気管切開術施行、下半身麻痺等重篤な症状であつたため、専門的家政婦による密度の高い看護が不可欠であつた。

(三) 転医費 三二万二〇九〇円

車椅子、装具代として要したもの。

(四) 雑費 三三二万三五五八円

昭和五九年九月三日から同六〇年三月二七日までの間に家族の交通費、通信費その他に要した雑費であるが、原告の入院した病院が遠隔地で、かつ、受傷が重大なこと等により実額を請求する。

(五) 休業損害 六七三万一五〇六円

原告は、本件事故当時、訴外好一と共に、婚礼貸衣装業を営業目的とする株式会社美好(以下「訴外会社」という。)等を経営し、主体業務である訴外会社の営業については、花嫁との接客、化粧着付等の営業の主要部分を担当しており、その寄与割合による事故前一年間(昭和五八年中)の収入は九〇〇万円であつたが、前記受傷により昭和五九年九月三日から同六〇年六月二日までの二七三日間にわたり休業を余儀なくされ、この間次のとおり六七三万一五〇六円の収入を得られなかつた。

9,000,000÷365×273=6,731,506

(六) 逸失利益 一億一八〇四万四〇〇〇円

原告は、前記後遺症状の固定時満四八歳であり、その就労可能年数は満六七歳までの一九年であるが、前記後遺障害のため労働能力を一〇〇パーセント喪失した。そこで、その間の得べかりし収入は前記のとおり年九〇〇万円であるから、新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して、原告の逸失利益の症状固定時における現価を算出すると、次のとおり一億一八〇四万四〇〇〇円となる。

9,000,000×13.116=118,044,000

(七) 入院慰藉料 三二〇万円

原告の前記入院に対する慰藉料は、少くとも三二〇万円とするのが相当である。

(八) 後遺症慰藉料 二〇〇〇万円

原告の前記後遺障害に対する慰藉料は、二〇〇〇万円とするのが相当である。

(九) 将来の介護料 六九〇五万八八〇〇円

原告は、前記後遺症のため、上肢のみを使用する摂食以外は日常生活全般にわたつて全介助を要する状態であり、さらに排尿、排便機能障害も伴うため、その介護を継続することは重大な負担であつて、原告は勿論、原告の家族も肉体的・精神的に疲労困憊の極に達しており、職業的付添人の介護を得なければ、最低限の日常生活すら到底維持することができない。また、原告は症状固定後も定期的に通院して投薬を受けているので、その治療費や通院費を要しているほか、定期的な車椅子の買換え、排尿器具等の購入、褥創防止のための栄養補給費等の諸雑費として年間少くとも三六万五〇〇〇円を要しているので、この諸雑費も介護料の一内容として考慮すべきである。従つて、原告の介護料は月三〇万円を下らない。

そこで、原告の症状固定時の年令は満四八歳で平均余命は三三年であるから、新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して、原告の介護料の症状固定時における現価を算出すると、次のとおり六九〇五万八八〇〇円となる。

300,000×12×19.183=69,058,800

(一〇) 家屋改造費 一五二二万五〇〇〇円

原告は、症状固定後の日常生活のためにトイレ、風呂場の改造等をなし、その費用として一五二二万五〇〇〇円を要した。

(一一) 損害の填補 三九六八万一三八一円

原告は被告らから三九六八万一三八一円を受領したので、これを前記(一)ないし(一〇)の損害合計二億四八二八万五二四九円に填補すると、原告の残損害額は二億〇八六〇万三八六八円となる。

(一二) 弁護士費用 一六〇〇万円

原告は、被告が右損害を任意に支払わないため、原告訴訟代理人弁護士に本件訴訟の提起、追行を委任したが、弁護士費用としては右金額が本件事故と相当因果関係のある損害というべきである。

5  結論

よつて、原告は、被告ら各自に対し、前記損害合計二億二四六〇万三八六八円のうち二億〇八六二万五三〇八円及びこれに対する本件事故発生の日である昭和五九年九月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実中、(一)ないし(六)は認め、(七)は原告の受傷の部位及び内容は知らないが、その余は認める。

2  同2の事実中、(一)は認め、(二)は本件事故の発生につき被告藤田に前方安全不確認の過失があつたとの点は否認するが、その余は認め、(三)は争う。

3  同3の事実は知らない。

4  同4の事実中、(一)ないし(一〇)及び(一二)は争い、(一一)は原告の受領金額は認めるが、その余は争う。

原告の所得については、その発生源である事業内容及び業態が不明確で所得を的確に把握しうるものではない。

原告の介護料については、原告の症状は事故後のリハビリテーシヨンの効果により日常の諸動作の可能な範囲がかなり拡大されてきているので、近親者の付添には若干の考慮の余地はあるとしても、職業的付添人の介護を必要とするものではない。

原告の家屋改造費については、訴外好一を代表者とする株式会社いとよしが新たなビル建設のため改造家屋を取り壊して現存しないものであり、また、その費用も不明確である。

5  同5は争う。

三  抗弁

1  訴外好一は、守山パーキングエリアの加速車線から本件道路の走行車線へ進入する際、被告車の接近に気付かず、被告車との間隔が一〇メートルしかないのに、時速四〇ないし五〇キロメートルの低速度で何らの合図もしないまま被告車の進路前方に進入したうえ、漫然時速約六〇キロメートルの低速度で進行したため、被告藤田は、左右いずれの方向にもハンドルを転把できず、咄嗟に急制動の措置をとつたが、間に合わず、被告車を原告車の後部に追突するに至らせたものである。以上のように、本件事故は訴外好一の一方的過失によつて発生したもので、被告藤田に過失はなく、また被告車には構造上の欠陥及び機能上の障害もなかつた。従つて、被告今村には自賠法三条但書により責任がない。

2  過失相殺の抗弁(仮定予備的抗弁)

仮に本件事故の発生につき被告藤田に過失があるとしても、訴外好一にも前記のような重大な過失があるうえに、原告自身も原告車に不適当な方法で乗車していたため傷害が拡大した過失があるから、本件事故による原告の損害額算定については、訴外好一の右過失は原告と訴外好一の経済的一体性等に鑑み原告側の過失としてこれを斟酌するほか、原告自身の右過失も斟酌すべきである。

即ち、訴外好一は、原告車の後部座席を取り払い、衣桁等の荷物の搬入・格納に便宜なようにするため、横板を敷くなどして荷台様に違法改造したが、原告は、本件事故当時、この荷台上に横臥して眠つており、極めて不安定で無防備な態勢にあつたため、本件事故の衝撃により原告の身体はいずれかの方向に急激かつ加速的に回転若しくは移動し、少くとも前部座席裏面に首や腰部を強打して受傷したものである。若し、原告が正規の後部座席に乗車しておれば、現症状の如き重度の障害は未然に回避しえたものである。原告の損害が拡大したのは、以上のような原告の乗車方法が不適当であつたことによるものであり、これは原告の過失というべきである。

四  抗弁に対する認否及び反論

1  抗弁1の事実は否認する。訴外好一は、守山パーキングエリアの加速車線から本件道路の走行車線へ進入する際、ウインカーを点滅しながら加速車線を走行し、バツクミラーや目視によつて走行車線の後方から進行して来る車両の有無を確認したところ、接近車がなかつたので、引続きウインカーを点滅しながら加速車線の中程(三三三・四キロポストと三三三・三キロポストの中間点)付近から時速六〇ないし七〇キロメートルの速度で走行車線に進入し、ウインカーを消して走行車線において加速走行中に後方より進行してきた被告車に追突されたものであつて、訴外好一は、交通量の極めて多い本件道路に進入する際にとるべき通常の走行方法をとつていたものであるから、訴外好一には、本件事故の発生につき過失はない。

2  抗弁2の事実中、訴外好一が原告車の後部座席を被告ら主張のような構造に改造したことは認めるが、その余は否認する。本件事故の衝撃に照らせば、例え原告が改造されていない正規の後部座席に乗車していても、身体を前部座席との境に強打して同様の傷害を負うに至つたことは明らかであり、被告ら主張の点は、原告の受傷の程度との間に因果関係がない。

第三証拠関係

本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。

理由

一  請求原因1(本件事故の発生)の事実中、(一)ないし(六)、(七)のうち原告の傷害の部位及び内容を除くその余の点は、いずれも当事者間に争いがない。

二1  請求原因2(責任原因)の事実中、(一)は当事者間に争いがない。

2  そこで、本件事故の発生状況につき検討するに、成立に争いのない甲第一号証の二の四、第一号証の四ないし八、鑑定証人林洋の証言により成立の認められる乙第一号証の一及び二(但し、後記採用しない部分を除く。)、証人峰田好一、鑑定証人林洋(但し、後記採用しない部分を除く。)の各証言並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一)  訴外好一は、原告車を運転し、守山パーキングエリアを出発して、本件道路上り線を名古屋インター方面へ向つて走行すべく加速車線を走行し、徐々に加速して加速車線の三三三・四キロポスト付近に至り、バツクミラーや目視によつて走行車線の後方から進行して来る車両の有無を確認したところ、接近車を認めなかつたので、ウインカーを点滅しながら加速車線の三三三・四キロポストと三三三・三キロポストの中間点付近で時速約六〇キロメートルの速度で走行車線に進入し、ウインカーを消して走行車線を右速度で走行中、三三三・二キロポストと三三三・一キロポストの中間点付近で後方から進行して来た被告車に追突された。

(二)  他方、被告藤田は、被告車を運転し、本件道路上り線三三三・五キロポスト付近を名古屋インター方面に向つて時速約九〇キロメートルで走行中、考えごとをしながら前方注視を欠き漫然進行したため、折柄自車の前方約百数メートルの地点を時速約六〇キロメートルの速度で加速車線から走行車線へ進入して来た原告車に気付かず、前方約九メートルに迫つてようやく発見し、急制動の措置をとつたが間に合わず、追突するに至つたものである。

右事実が認められ、前掲乙第一号証の一及び二の記載並びに鑑定証人林洋の証言中、右認定に反する部分は採用できず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

3  右2の認定事実によれば、本件事故の発生につき、被告藤田に前方安全不確認の過失があることは明らかである。

被告らは、本件事故の発生については訴外好一にも過失があると主張するところ、右2の認定事実によれば、訴外好一は、被告藤田運転の被告車が後方約数百数メートルの地点に迫つて来たときに、時速約六〇キロメートルの速度で加速車線から走行車線へ進入したものであるが、両車の速度及び進入の際の車間距離から見て、訴外好一の進入方法に特に落度があつたとは認め難く、かえつて、前掲証拠によれば、本件事故当時の事故現場付近の上り線には原告車及び被告車以外に通行車両がなかつたことが認められるので、被告藤田が前方を注視しておれば、原告車を進入時点で捉らえ、追越車線へ移行して追い越すなり、減速して原告車との衝突を回避することは容易にでき、このような措置をとることが無理であつたと認むべき状況ではないので、訴外好一に過失があると認めることはできない。

また、被告らは、原告の乗車方法が不適当であつたことが原告の損害を拡大した旨主張する。しかして、訴外好一が原告車を被告ら主張のような構造に改造したことは当事者間に争いはないが、前記証人峰田の証言によれば、原告は原告車の後部荷台に積み込んであつた布団に寄りかかるようにして眠つていたところを追突されたもので、その衝突状況によつて推認される衝激に照らせば、原告主張のように、例え原告が正規の後部座席に乗車していても本件の如き受傷を回避しえたかどうか疑問があるので、被告らのこの点の主張も採用できない。

以上のとおりであるから、被告らの抗弁はいずれも理由がない。

三  請求原因3(原告の受傷及び治療の経過等)の事実について判断するに、成立に争いのない甲第三号証の一ないし九、第四号証によれば、右事実を認めることができ、原告の後遺障害は等級表の第一級三号「神経系統の機能又は精神に著しい障害を残し、常に介護を要するもの」に該当すると認めるのが相当である。

四  請求原因4(損害)の事実について判断する。

1  治療費 八七七万一四四〇円

成立に争いのない甲第五号証によれば、原告は、前記認定にかかる受傷の治療費として、本件事故当日から昭和六〇年五月三一日までの間に、合計八七七万一四四〇円を要したことが認められる。

2  付添看護料 三二二万〇二三五円

前掲甲第三号証の一ないし九、前掲証人峰田の証言により成立の認められる甲第一一号証の一ないし二四によれば、原告は、前記受傷のため専門的家政婦の付添を必要とし、その費用として、本件事故当日から症状固定日の昭和六〇年六月二日までの間に、合計三二二万〇二三五円を要したことが認められる。

3  転院費 三二万二〇九〇円

前掲甲第五号証によれば、原告は転院に伴う車椅子、装具代として、合計三二万二〇九〇円を要したことが認められる。

4  雑費 九九万七七一〇円

成立に争いのない甲第一七号証の一及び二、前掲証人峰田の証言により成立の認められる甲第一七号証の三ないし七、第一七号証の八の一ないし三によれば、原告は、前記受傷による入院以来、相当金額の諸費用を支出したことは認められるが、右費用中には本件事故と相当因果関係を認め得ない性質のものも相当含まれている。従つて、原告の前記受傷の程度等を勘案しても、雑費としては、前掲甲第五号証の雑費欄に昭和六〇年七月二二日現在雑費名義で支弁したものとして記載されている金額一一八万〇四四一円に基づき、本件事故当日から昭和六〇年七月二二日までの日数合計三二三日についての一日平均額を算出し、これに対し本件事故当日から昭和六〇年六月二日までの日数合計二七三日を積算して得られる九九万七七一〇円を雑費として認めるのが相当であると考える(なお、原告は昭和六〇年三月二七日までの分を請求しているが、右のように計算したうえ症状固定日の昭和六〇年六月二日までの分を認定することは、弁論主義に違背しないものと考える。)。

1,180,441÷323×273=997,710

5 休業損害 六七三万一五〇六円

成立に争いのない甲第八号証、第一六号証の一及び二、第二五号証、第三〇号証の一及び二、第三二号証、第三四号証、前掲証人峰田の証言により成立の認められる甲第六、第七号証、第二七号証、官署作成部分については成立に争いがなく、その余の部分については右証人峰田の証言により成立の認められる甲第二六号証並びに右証人峰田の証言によれば、原告の夫である訴外好一は昭和五二年に婚礼貸衣装業等を営む株式会社美好を設立したが、右会社は株式会社といつても個人会社であつて、原告はその婚礼貸衣装部門を中心的に担当し、本件事故の前年である昭和五八年度の営業に対する寄与割合による年収は九〇〇万円を下らなかつたこと、原告が本件事故に遭遇しなければ、昭和五九年度及び同六〇年度も同程度の収入を得られたであろうこと、以上のように認められ、この認定を左右するに足る証拠はない。

しかるに、原告は、前記受傷により本件事故当日の昭和五九年九月三日から同六〇年六月二日までの二七三日間にわたり休業を余儀なくされたので、この間次のとおり六七三万一五〇六円の収入を得ることができなかつたものである。

9,000,000÷365×273=6,731,506

6 逸失利益 六八三八万五六〇〇円

前掲甲第三号証の八によれば、原告は前記後遺症状の固定時満四八歳であることが認められるので、その就労可能年数は満六七歳までの一九年とするのが相当であるところ、前記認定にかかる後遺障害のため労働能力を一〇〇パーセント喪失したものと認められる。

ところで、前掲甲第二七号証、第三四号証によれば、原告夫婦が婚礼貸衣装業を始めたのは昭和三六年であり、以来営業が順調に発展するとともに関連部門を取り込み、会社を設立するなどして業種の拡張・発展に努めて来たが、昭和五一年に大口取引先が倒産したのを機に業種が傾いたこと、そこで、原告夫婦は各地の営業所を処分して再建に取り組んだが、訴外好一が脱税事件に問われて従業員もすべて退職してしまい、営業場所も前記の如く昭和五二年に設立した株式会社美好が所在する店舗だけとなり、家族三人だけの営業として再出発せざるをえない結果となつたこと、以来、原告夫婦は懸命な努力を重ねて信用を回復し、営業内容を次第に拡張して前記の如き収入を得るまでに至つたこと、以上のような経緯が認められる。

このように、原告らの営業は過去においてかなりはげしい浮沈があつたことに照らすと、原告が前記就労可能年数一九年の全期間にわたつて前記年収九〇〇万円を得ることができる蓋然性が高いとはにわかに認めることができず、右金額の六〇パーセントである年収五四〇万円の限度で蓋然性があるものと認めるのが相当である。

そこで、右年収五四〇万円を基礎に新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して、原告の逸失利益の本件事故発生時における現価を算出すると、次のとおり六八三八万五六〇〇円となる。

5,400,000×12,664(13.616-0.952)=68,385,600

7 入院慰藉料 二六〇万円

原告の前記受傷の程度、入院期間等に照らすと、原告に対する慰藉料は二六〇万円とするのが相当である。

8 後遺症慰藉料 二〇〇〇万円

原告の前記後遺障害に照らすと、原告に対する慰藉料は二〇〇〇万円とするのが相当である。

9 将来の介護料 五三五七万〇八八〇円

成立に争いのない甲第三八号証、証人武田信巳の証言により成立の認められる甲第三五号証の一ないし四、前掲証人峰田、右証人武田の各証言及び弁論の全趣旨によれば、原告は肘を付いて食事をするのが精一杯で、その他は排尿、排便をはじめ日常生活全般にわたつて全介助を要する状態であり、これを家族の介護だけで行うことは困難であつて職業的付添人に相当程度依存せざるを得ないもので、この症状の改善は将来期待できないこと、原告は症状固定後も定期的に通院して投薬を受けているので、その治療費や通院費を要しているほか、定期的な車椅子の買換え、排尿器具等の購入、褥創防止のための栄養補給費等の諸雑費として年間相当額を要していることが認められ、この認定を覆すに足る証拠はない。

右認定の事実に照らすと、原告の将来の介護料としては一日八〇〇〇円の割合による一か月二四万円と認めるのが相当であり、原告は前記症状固定時満四八歳で平均余命は三三年であるから、新ホフマン方式により年五分の割合で中間利息を控除して、原告の将来の介護料の本件事故発生時における現価を算出すると、次のとおり五三五七万〇八八〇円となる。

240,000×12×18.601(19.553-0.952)=53,570,880

10 家屋改造費

前掲甲第三八号証、前掲証人峰田の証言により成立の認められる甲第一二、第一四号証及び右証人峰田の証言によれば原告は症状固定後の日常生活の便宜のために一五二二万円をかけてトイレ、風呂場の改造等をなしたことが認められる。しかしながら、これらの改造等が原告の日常生活のために前記認定の介護とは別個にどの程度の必要性・相当性があつたかは本件全証拠によるも必らずしも明らかではなく、また右証人峰田の証言によれば、これらの施設はビル建築のために自宅を取り壊した際に一緒に取り壊されたことが認められるので、これらの事情に照らすと、右費用は本件事故と相当因果関係のあるものとして肯認するに足りない。

11 損害の填補

原告が被告らから三九六八万一三八一円を受領したことは当事者間に争いがないので、これを前記1ないし9の損害合計一億六四五九万九四六一円に充当すると、原告の残損害額は一億二四九一万八〇八〇円となる。

12 弁護士費用 四〇〇万円

本件事案の内容、訴訟の経過、認容額その他諸般の事情を勘案すると、本件事故と相当因果関係のある損害として原告が被告らに請求しうる弁護費用額は本件事故時の現価に引き直して四〇〇万円とするのが相当である。

五  結論

よつて、原告の請求は、被告ら各自に対し、前記四の11の残損害額一億二四九一万八〇八〇円に同12の弁護士費用四〇〇万円を加えた一億二八九一万八〇八〇円及びこれに対する本件事故発生日の昭和五九年九月三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 寺本榮一)

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